デジタル印刷機の生産性を最大化するために、印刷機を最高速度で駆動するための予測可能な印刷ジョブが必要

 印刷市場のデジタル化が進んでいます。 デジタル印刷には、従来の印刷に比べて多くの利点があります。 それらの中で最も価値のあるのは、すべてが異なるパーソナライズされた印刷物の大量生産です。 同時に、デジタル印刷機の高速化、幅広化、高解像度化、広色域化が進んでいます。

 新しいクラスのデジタル印刷機を駆動するには、毎秒大量のラスターデータが必要です。非デジタル・ワークフロー用に設計された従来の印刷ソフトウェアでは、この膨大なデータを処理するために、ラスターを物理的なディスクに保存して、事前にリッピングしようとしていました。 しかしながら、デジタル印刷機が必要とするデータ速度により、ディスクベースのワークフローは急速にデータ速度の限界に達しました。 これは、印刷機を最大定格速度で稼働し続けるために必要となる膨大なデータ速度に対し、最先端のストレージデバイスでさえ小さすぎて遅すぎるということです。 このため、ディスクを排除し、印刷機の電子機器に直接、オンザフライで印刷ジョブをRIPするという新世代のRIPが登場しました。 はるかに高いデータレートを実現するだけでなく、事前RIPの為に無駄な時間を待つ必要がないという利点もあります。ご想像のとおり、印刷機の電子機器に直接RIPすることは、いくつかのエンジニアリング上の課題をもたらします。 。。。

話の続きは、以下YouTubeムービーを御覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=lAGBg9_1RM4

SmartDFEの高速性を支える技術

 前回までに高速のワンパスインクジェットプリンタでどのようにすれば高速・高品質な印刷ができるかを説明してきました。 今回は、1200x1200 DPIで50m/分~200m/分に至る高速ワンパスインクジェットプリンタで、どのようにすればオンザフライでRIP処理しながらプリンタが必要とするラスタデータを生成し、印刷機に供給できるかを説明します。

 SmartDFEでは、業界最速と評価されているHarlequin RIPを使用しておりますが、流石にどんなに高速なRIPを使用しても、1200x1200dpiで200m/分でフルバリアブルという要件に単独のRIPで追従させることは困難です。 以下にSmartDFEが採用しているHarlequin Directの処理に関して説明して参ります。

HQN_Direct.png

● 高速性で定評のあるHarlequin Core RIPを使用。RIP単体性能が高いので、使用するRIPコアの数を最小限にできる。 もしくはPC内の限られたCPUリソースの範囲で、処理性能を最大化
● 複数のRIPとScreenPro( スクリーニングエンジン)でページ分散同時処理。 使用するRIPとScreenProの数は、最適化可能
● オンザフライモードで動作: RIPしながら印刷できるので、直ちに印刷を開始可能。ディスクにラスターイメージデータを書き出さず、シェアードメモリ上でパイプライン処理。大容量のストレージデバイスが不要
● オフラインモードにも対応可能: RIP済みラスターイメージデータを一度ストレージデバイスに保存した後、印刷を開始するモードにも対応可能
● フルバリアブル用のSmartDFEでは、一台のHarlequin Direct PCで特定インク色のラスターイメージのみを生成するので、データ転送制御がシンプルになり、データ転送のバンド幅を広げる
● Harlequin Direct毎に解像度、ピクセル深度、スクリーニングを変更可能。例えば、ホワイトやニスでは異なる解像度やピクセル深度を利用可能
● 画像検査装置用に、低解像度の8-bitのRGBラスターイメージを生成可能
● 多色印刷(ex. CMYK+GVO)、ホワイト、クリア、特殊インク(ex. 蛍光、ゴールド、シルバー、等)に独立したHarlequin Direct PCで対応可能
● 両面印刷でも処理速度を落とさない
● Meteor Inkjetを含め、あらゆるインクジェットヘッドコントローラーボードに対応可能
● Harlequin VariData*により、静的データとバリアブルデータが混在するバリアブルジョブで、ハードウエアコストを低減可能

 また、SmartDFEはでは、オートチューン(Autotune)(Global Graphics Softwareの特許技術)に対応予定です。 印刷ジョブの分析に基づきSmartDFE構成を最適化するので、手動で設定しなくても最大速度を達成できるようになる予定。

* VariDataとは:
 全てのページで固定となる、もしくは頻繁に再出現するグラフィックス部分を識別し、最初にラスタライズした画像をメモリ上にキャッシュし、2回目からは再度レンダリングすることなくコピーすることでパフォーマンスを最大化する機能。

高速のワンパスインクジェット印刷における出力画像品質の課題

 前回までに高速のワンパスインクジェットプリンタでどのようにすれば高速に印刷できるかを説明してきましたが、今回は出力画像品質面での課題と、それらのソリューションを紹介させていただきます。

 まず、インクジェット印刷機では、通常従来の網点(AMスクリーニング)ではなくFMスクリーニングを使用しておりますが、スクリーニングのデザインや使用条件により、チェーニング、モットリング、オレンジの皮効果といったさまざまな問題が発生します。

motling.png

 弊社では、さまざまな使用条件毎に最適化した3種類のAIS(Advanced Inkjet Screens)と呼ばれるインクジェット用のスクリーンセットをを開発しました。以下にそれら3種類のFMスクリーニングを簡単に説明します。

● Mirror: ブリキ缶やフレキシブルパッケージなどの吸収性が低く、乾燥に時間がかかる媒体や濃いメタリックインクによる印刷に適している。
● Pearl: 吸収性の高い媒体上で自然なイメージを表現するのに最適。チェーニングやストリーキングといった問題に対処することを主な目的としている。
● Opal: MirrorとPearlの両方の特徴を組み合わせたもの。

 また、PostScriptの仕様では、さまざまなスクリーニングに対応できるフレームワークを提供しておりますが、その仕様は20年以上も前に制定されたもので、最近の技術的な要件に応えるのが少し困難になってきました。 Harlequin RIPでも、互換性の観点でこれらのスクリーニングフレームワークに対応しておりますが、以下の理由でScreenProと呼ばれる外部スクリーニングエンジンを開発しました。

● 最新のスクリーニングアーキテクチャに対応する為
 PostScript仕様で規定されているアーキテクチャが古く、特に2-bitと4-bitのスクリーニングへの対応が困難な為
● スケーラブルにする為
 Harlequin Direct内では複数のRIPとScreenProを使用している。ジョブ毎に最高のパフォーマンスを得るために、使用するRIPとScreenProの数を最適化できることが望ましい為。RIPの中のスクリーニングを使用するとRIPとスクリーニングは1対1であり、どちらかに処理の比重が傾く時に、処理速度の最適化が困難です。

 さらにワンパスのインクジェット印刷機では、インクジェットヘッドを千鳥状にならべて印刷幅を拡張して印刷機として製品化しておりますが、それぞれのインクジェットヘッドの濃度ばらつき、インクジェットヘッド内での濃度ばらつき(スマイル問題)が発生します。 当社ではPrintFlatと呼ばれる技術を開発し、これらの印刷濃度のバラツキ問題を補正する技術をライセンスしています。

図(PrintFlat)
PrintFlat.png

 さらにインクジェットならではの問題として、ノズルの目詰まり問題があります。 一般的には、特定ノズルが目詰まりした時、もしくは吐出が不安定になった時、そのノズルに対する出力を完全に停止し、近隣ノズルで補正する技術を提供しております。 補正の仕方はさまざまあります。 弊社でもシスターカンパニーであるMeteor Inkjet社のインクジェットヘッドドライバボードを使用して、NozzleFixとよばれるノズル欠補正に対応しています。

ノズル欠補正

 インクジェットヘッドの吐出に関連した問題に対処する従来の方法の多くは、ノズル障害を検出できるパターンを実際に印刷し、その結果を目視もしくはスキャンして不良ヘッドとノズルを特定するものでした。 Meteor Inkjet社では「インクジェットノズル状態検出(Inkjet nozzle status detection)」に関する米国特許 (米国特許第 11,504,966 号)を持っており、ピエゾ励起後のノズルからの電気フィードバックのリアルタイムモニタリングを使用して、目詰まりしているノズル、または目詰まりしそうなノズルを検出する技術を保有しています。

高速バリアブルデータ印刷における画像検査装置の利用

 前回までに高速のワンパスのインクジェットプリンタでどのようにして高速に印刷できるかを説明してきましたが、今回はSmartDFEのオプションで提供できる画像検査装置用のRGBインターフェイスに関して説明します。

 多くの印刷会社では、画像検査装置を使用して印刷物の不良を検知し、納品物の品質を保証しておりますが、バリアブルデータ印刷を行う高速のワンパスインクジェットプリンタの速度に追従できるように画像検査装置用の画像を高速に生成するのは困難でした。 特にCMYKOGVやCMYKRGBといった拡張色域印刷や特色を使用した印刷ではさらに厳しくなります。 SmaftDFEでは、以下に示す様な構成により、例えば印刷用には1200x1200dpiのスクリーニング付きCMYKセパレーション画像を生成しながら、並行して画像検査装置用に、300x300dpiのコンポジットのRGB画像を高速に生成し、インラインスキャナやカメラ用に提供できます。 またオプションでOPC UAに対応しており、画像検査装置を制御することも可能です。

SmartDFE_inspection.png

ロール紙用のワンパスのインクジェットプリンタで高速印刷

 前回までにSmartDFEを用いて高速にオンザフライでRIPしながら印刷する仕組みを説明してきました。 今回は、ロール紙印刷用の高速のワンパスインクジェットプリンタでさらに必要となる機能について説明します。 当然ながらロール紙に印刷する場合は、用紙を印刷後に断裁する必要があり、そのために印刷された画像との位置関係を示すマークなどを印刷に追加する必要があります。 両面印刷では更に裏面の画像を印刷する場所を特定するためにも必要となります。

 SmartDFEでは、SPCと呼ばれるGUI用のモジュールとHQN Directを使用して印刷用のマークをページラスターに追加することができます。 この機能を使用すれば、印刷用のPDF内にマークを追加する必要はありません。 以下は、マークなどを追加した印刷用の分版ラスターを分かりやすいように合成して表示しております。

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