賢者の RIP 選び

先週、雑誌記者の取材を受けた。「適材適所の RIP 選び」という企画で話を聞きたかったようであったが、おそらく記者の方が予想していたより話は複雑だったのではないかと懸念している。



最も重要な要素の一つに、サポートする PDL 形式が挙げられる。PostScript、PDF (含む各種 PDF/X) 形式に対応できることは勿論のこと、ちまたで Microsoft の PDF とささやかれている XPS 形式への要望も今後高まることが予想される。またオフィス向けのプリンタ/MFP 用の製品では、市場で実質的に業界標準となっている PCL 5e/5c/XL への対応も必須だ。これら PDL 形式すべてに「ネイティブ」対応できることが非常に重要だ。「ネイティブ」の意味は、他の中間形式に一度変換せずに、直接その PDL 形式を解釈・処理することを意味する。



従来 Adobe 社の CPSI では、PDF の処理をネイティブで行っておらず、PDF 形式を一度 PostScript 形式に変換した後、処理していた。 PDF オブジェクトは PostScript のグラフィック・プリミティブをベースとしていたため、この方式でも品質的には問題はなかったが、 PDF 1.4 による透明効果のサポートで、状況は一変した。なぜなら、中間形式の PostScript が透明効果に対応していなかったためである。そのため、いわゆる分割統合と呼ばれる仕組みが必要となった。この PDF における透明効果のイシューは、Adobe PDF Print Engine (APPE) で PDF をネイティブ対応することで対応された。 更に付け加えれば、PDF 内部の透明レイヤー部分を、RIP ワークフローの後半でカラーマネージメントを掛けることがディバイスに最適化された出力を得る上でとても重要なポイントとなる。



RIP がターゲットの PDL 形式にネイティブ対応しない場合、中間形式への変換でパフォーマンスが劣化したり、品質劣化のリスクが生じる。 むしろ多くの Adobe 社以外の RIP では、当初から PDF にネイティブ対応しており、実は Adobe 社が APPE で追いついた格好だ。



さらに付け加えるのであれば、1つの RIP コアで、これら業界標準の PDL 形式すべてに対応できることが印刷機器製造業者にとってとても重要な要素となる。なぜなら、1つの RIP コアで対応できることにより、均一な画像品質を全領域の PDL で確保でき、さらに共通コードが使用できるため、メモリ要件(コスト)を減らすことが出来、さらに共通 API や資産が使用できるため、開発・サポートのコストを抑えることができるからだ。また、エンドユーザーでも、PostScript ベースの従来ワークフローと、PDF ベースのワークフローを切り替えずに使用できれば、そのメリットも大きい。



そこで、チェックポイントその1:1つの RIP コアで、必要となるメジャーな PDL 形式すべてに「ネイティブ」対応できていること。



サポートする PDL 形式は、RIP 選択の一要素に過ぎないが、今後その他のチェックポイントも、私見として話したい。

デジタル印刷と可変印刷技術

ダイレクトメールの世界では、大量印刷・大量配布をベースとした物量手法から顧客データベースからの情報を元に、デジタル印刷の特徴を活かしたより効率的な One-to-One マーケティング手法に代わりつつある。これを可能にしたのが、デジタル印刷と可変印刷(バリアブル印刷)技術だ。



デジタル印刷機は高速化・高品質化(含むカラー化)が進み、ショートラン印刷・短納期といった自身の特徴を活かした市場のみならず、可変印刷を駆使した新しい市場を開拓しながら伸びていくものと期待される。



ここでボトルネックとなるのが、RIP 処理速度だ。当然なこととして、印刷処理よりも高速に RIP 処理が行われることが求められ、それを実現するための技術が必用となる。マルチプロセッサ環境における、パイプライン・プロセス、マルチスレッド・レンダリングなどの同時処理技術、さらには、多くの RIP 間で印刷ジョブの分散処理を行う 仕組みが求められている。既に 10 台以上の PC 上で複数の RIP を同時に走らせることも行われており、100 を超える RIP での分散処理も進められている。



一方、可変印刷(バリアブル印刷)では、固定データ部分を、ラスタとしてキャッシュし、再利用することにより高速に RIP 処理することが求められている。 トランザクション印刷やトランスプロモ印刷で使用されている技術だ。トランスプロモ印刷では、顧客データベースからの情報により、何種類もの固定データーを張り替えるケースがあり、高い柔軟性が求められる。方式的には、PPML や PDF/VT(まだ標準化の最中)等の可変印刷用の PDL 形式を用いるもの、自社形式を用いるもの、さらには 通常の PDF を用いながらも、RIP 側で自動的に固定データーとバリアブルデーターを識別するもの等がある。

PAGE2009 大盛況

恒例となっている PAGE2009 への出展を大盛況のうちに終えることができた。 
当社の場合、来場者の総数はあまり関係が無いが、PAGE2009 の来場者数は 3 日間の合計で 74,360 人とのことであり、100 年に一度と言われる不況の中、昨年の 68,280 人から約 9% 増加したという結果に対して、JAGAT の努力に敬服する。

eDocument Library でバリアブル印刷データを生成

Global Graphics の eDocument Library を用いると、バリアブル印刷用の印刷ジョブを、1枚のテンプレートと、データーベースからの可変データとをマージすることにより、生成することが可能となる。



PAGE2009 のグローバルグラフィックス株式会社のブース (D-28)では、1枚の XPS テンプレートと、Microsoft Access データーベースからの可変データを用い、バリアブル印刷用の PDF を生成するデモが行われる予定。



尚、これにより作成された PDF は、同社の Harlequin RIP の PDF Retained Raster 機能を用いることにより、高速に印刷させることが可能となり、一環したテクノロジで印刷ジョブの生成と印刷を統合でる。



また、これは eDocument Library を使用した一つの実施例であり、Web to Print や Web to Publishing への応用も考えられる。

600 PPM の 超高速 RIP デモ

Global Graphics の Harleuqin RIP のシングルプロセッサ上における性能は、市場で高く評価されていいるが、実は同社にはマルチプロセッサのサポートに関して 15 年以上の経験があり、マルチスレッドレンダリングも長年に渡り市場で使用されている。



PAGE2009 のグローバルグラフィックス株式会社のブース(D-28)では、Quad core Intel Xeon プロセッサ + Linux x86 上で、Harlequin RIP のマルチスレッドレンダリングと、マルチ RIP 構成で 600 ppm (Quad core Intel Xeon 2.5GHz 600 DPI CMYK 8-bit、ラスタ廃棄、Global Graphics 社テストデータ使用)の RIP デモが行われる予定。



勿論、更に高速な CPU(例えば、3.5GHz の Intel Xeon)を用いれば更に高い高速化が達成される。更に、ブレードサーバー構成で、数千PPM の対応も見えてくる。

Harlequin RIP の PDF Retained Raster

Global Graphics の Harlequin RIP に、PDF Retained Raster 「PDF リテインドラスタ」という機能があり、バリアブル印刷系の印刷ジョブを高速化できる。



PDF Retained Raster を有効にすることにより、PDF 内で毎ページ現れる共通オブジェクトを、RIP 側で自動的に検出し、毎ページ RIP 処理しなくてすむようにレンダリング結果をラスタとしてキャッシュし、繰り返し再利用する。 これにより、バリアブル印刷系の RIP 処理速度を最大数倍にまで高めることが可能となる。



この機能の使用により、PPML 等の特殊なファイルを用意しなくてよくなるため、簡単に高い処理速度を実現できる。ただし、PDF Retained Raster の効果の度合いは、印刷ジョブの特質と RIP を走行させるプラットフォーム環境により変わる。



この機能は、PAGE2009 のグローバルグラフィックス株式会社 のブース(D-28) でデモされる予定。

PAGE2009

PAGE2009 が 2 月 4 日(水曜日)から 6 日(金曜日)まで東京池袋サンシャインシティ
コンベンションセンター東京で開催される。



米国のサブプライムローン問題に端を発した世界同時不況の最中、バリアブル印刷、
トランスプロモ印刷、デジタルサイネージ、オンディマンド印刷、Web to Print 等、
新しい効果的なプロモーション手法や効率的なビジネス手法に脚光が集まっており、
それらを実現するための新しい技術の展示に期待したい。 市場は、新しい市場を創造
できる程の高い価値を持つ商品を求めております。 一方メーカーは、ブレークスルー
を実現できる高い技術を求めております。



今回のPAGE2009のテーマは「ゼロリセット」、自社の製品の背景技術ベースを、ニーズ
の観点で根本から見直してみる良い機会かもしれない。