PDF/VT 標準化の状況
国際標準化機構(ISO) の委員会 TC130 が、PDF/VT (ISO 16612-2) と呼ばれる、PDF をベースとしたトランザクション印刷とバリアブル(可変)印刷のコンテンツ配送のための新しい標準の作成ために活動している。現在まだ ISO "working draft" のステージ(ISO 内部の DIS 投票を開始するところ)。この意味は、現在の草案は発行までにまだ変わる可能性があるという意味。標準の発行時期は、だれかが反対票を投票するか否かにより大きく変わるが、今年末までには難しそうである。
■ PDF/VT 適合レベルの種類
現在の草案では、3 種類の PDF/VT 適合レベルを規定しており、異なる特性をもつワークフローで使用できるように検討されている。
1.PDF/VT-1:
1つの PDF/VT-1 ファイル内に印刷に必用となるすべてのリソースがカプセル化されており、これらリソースにはイメージ、カラープロファイル、フォント等が含まれる。 すべての PDF/VT-1 ファイルは、また PDF/X-4 仕様にも準拠している。
2.PDF/VT-2:
プライマリ PDF/VT-2 ファイルと、リソースを保持するセカンダリ PDF ファイルから成り、これらは集合的に「ファイルセット」と呼ばれる。
セカンダリ PDF ファイルには、ジョブ内の同一ページ内もしくは他のページで何回も再利用されるグラフィカルコンテンツが含まれる。プライマリファイルからセカンダリ PDF ファイル内のページへの参照方式には、PDF の Reference XObject が用いられる。
プライマリファイルは、PDF/X-4p、PDF/X-5g もしくは PDF/X-5pg 仕様のいずれかに準拠していなければならない。再利用されるグラフィカルコンテンツを含むセカンダリファイルは、PDF/X-1a、PDF/X-3、もしくは PDF/X-4 仕様のいずれかに準拠していなければならない。
セカンダリ PDF ファイルは、複数の PDF/VT-2 ファイルから参照することができ、複数のプライマリファイルの再利用可能な共通コンテンツになれる。これにより印刷プロセスを効果的に分割するメカニズムを提供し、巨大なジョブを、幾つかのプライマリ PDF/VT ファイルに分割し、それぞれのファイルには、一回だけ使用されるグラフィカルコンテンツのみを含め、共有コンテンツは、1つの共通セカンダリ PDF ファイルから読み込ませることができる。
3.PDF/VT-2s:
1つもしくは複数の PDF/VT-2 ファイルセットから成るジョブで、MIME を使用して1つのストリームにエンコードされる。これにより、複数のファイルセットにより問題が引き起こされやすい処理で安定したストリーミングワークフローが可能となる。
■ PDF/VT 機能
PDF/VT 標準は、以下の機能で現行 PDF/X 標準を拡張している。
1.ページ領域メタデータ
PDF/VT は DPart 構造の中にジョブ内部のすべてのページをページ領域の階層に分類するデーターを保持している。たとえば、それぞれの顧客がパーソナライズされたカバーレターとカタログを受け取るダイレクトメールジョブでは、印刷するページを以下の条件で選択することができる。
※国/県/市町村
※郵便番号
※受領者
※レター、カタログカバー、カタログ内容
メタデータは、それ自身もしくは幾つかの形式のジョブチケットと連携して、ジョブをいろいろな方法で管理するのに使用することも可能だ。以下に、幾つか例を挙げる
※地域毎にジョブを分ける(郵便番号で)
※地域毎に印刷する日を分ける(東京都は今日、その他の県は明日)
※複数の印刷機での並行処理用にジョブを分割(メディア毎に異なる印刷機を用いる)
※どのページ領域を一緒に面付けする必用があるか、そして面付けの方法
※製本、折り、裁断、印刷後加工等の制御
カスタムメタデーターを DPart 階層のどのレベルでも追加でき、ディバイス特有の機能の制御が可能になるよう検討されている。
2.オブジェクト再利用におけるヒント
何回も再利用されるグラフィカルコンテンツは、PDF の Form XObject もしくは Image XObject としてファイル内でエンコードされる。現草案では、XObject 内に組み込める幾つかの新しいキーを規定し、例えば Digital Front End (DFE) に、XObject が再利用されるかどうか、再利用が複数のページに渡るかどうか、もしくは複数のジョブに渡るかどうか等のヒントを知らせることができる。DFE はこれら情報を元に、キャッシュの管理を効率化することができる。
3.MIME カプセル化のルール
PDF/VT-2s ストリーム内のファイル・コンテンツの順番やタイプといった MIME エンコーディングの方向性を、幾つかのルールで規定している
繰り返しになるが、現在の PDF/VT 標準化のステージはまだ "working draft" のステージであり、内容は仕様が発行される段階で大きく変わっている可能性がある。