AM スクリーニング

今回は AM スクリーニングについて話をしよう。PostScript や PDF の AM スクリーニングは、HalftoneType が1のハーフトーン辞書に、スクリーン線数、角度、そしてスポット関数(編点関数)等を定義することでカスタマイズできる。しかしながら、スクリーニングの背景技術はとても複雑であり、設定の簡単さに対し RIP 内の処理は比較にならないほど複雑で膨大である。



通常印刷機は、色の三原色シアン、マジェンタ、イエローにブラックを加えた 4 種類のインクを用いて印刷する。印刷機で用いられているインクは、それ自身で階調を表現できないので、面積階調により階調を表現している。そこで用いられている技術が、ハーフトーン(網点)もしくはスクリーニング技術であり、ハーフトーンセルと呼ばれる網点セルを並べ、編点セル中のピクセル濃度で、濃淡を表現している。通常ハーフトーンセルの並べる方向に関して角度を設けており、その方向軸に対し、1インチ当りのハーフトーンセルの個数をスクリーン線数と呼び、並べる軸の角度をスクリーン角度と呼んでいる。



同一のスクリーン線数で、異なるスクリーン角度を持つ2つのスクリーンを重ねると干渉パターンが発生する。この干渉パターンをモアレパターンと呼び、それら2つのスクリーン角度の中間角度を軸とするモアレパターンが派生する。このモアレパターンの周期が長くなると、人間の目には色むらとして見えてくる。このモアレパターンの周期を出来るだけ短くするためには、スクリーン間の角度差を出来るだけ大きくとることが好ましい。通常 30°以上の角度が好ましいとされている。もし 3 版のスクリーンを 90°の中に配置する場合は、30°ずつ回転し配置することで拡版間の角度差を最大化できる。しかしながら、CMYK 4版になると事はそう単純ではない。



人間の網膜は、45°のスクリーン角度が最もスクリーンを認識しずらい(鈍感になる)ので、通常最も濃いインク色であるブラックを、まずは 45°の角度に割り当てる。この角度から、30°の角度差の位置、即ち 15°と75°に、次に濃いシアンもしくはマジェンダを割り当てる。この場合、それぞれの版間には 30°のモアレパターンが現れるが、角度が 30°あるので、あまり気にならない。4 版目は 30°の角度差で配置された二つの版の中間、つまり2つの版から 15°ずつの角度位置に置くことが、モアレの問題を最小化できる置き方である。この条件だけでは、3 つの版の角度差は 30°(15°、45°、75°)であるため、何処のスクリーン角度の中間に置いても良いのであるが、一番目立つ色であるブラックとの 15°のモアレパターンを避ける為、シアン版とマジェンダ版(75°- 90°= -15°)の中間、即ち 0°にイエロー版を設ける。0°は人間の網膜でスクリーンを最も識別し易い角度ではあるが、イエローは CMYK のカラーナットの内最も認識しずらい色であるため、通常さして問題にはならない。



上記は、伝統的な AM スクリーニングの基本であり、実際は上記の変形をケースバイケースで用いている。例えば、印刷物の中心的要素が人の肌色であり、黒い部分が少ない印刷物の場合には、ブラック版とマジェンダ版のスクリーン角度入れ替えることがある。これにより、1番濃い色となったマジェンタ版を 45°に置いて、編点を目立たなくすることができ、さらにマジェンタ版とイエロー版の 15°の関係を回避でき、明るいピンクやオレンジ色で現れやすいモアレパターンの発生を低く抑えることができる。



またシアン、マジェンダ、イエロー版の 15°の角度差のスクリーン 3 版を重ねると、花模様のような特徴的なパターンが現れる。この特徴的なモアレパターンをロゼットと呼ぶ。このロゼットは、イエロー版の線数を、他の版の線数からわずかにずらすことにより、より目立たないロゼットパターンにすることが可能であり、イエロー版のみ他の版より 7% ~ 8% ずらした線数を用いることがある。



またイエロースクリーンの位相をずらすことにより、ロゼットの形状は変わり、センターにドットを持つセンタードットと、センターが抜けているクリアセンタという二種類のロゼットパターンに入れ替えることができる。クリアセンタのロゼットは、比較的、色の再現性が良く、深い陰の部分での細部の表現力に優れている。一方センタドットのロゼットは、網点がぴったりかさなったとき色ズレが最大になるので嫌われる。ただし印刷プロセスにおける機械的な精度により、ロゼットパターンの形状をコントロールすることは難しい。それよりも、安定したロゼットパターン形状を印刷ページ内全域に渡り安定して再現することの方が重要だ。



4 色の AM スクリーニングにおける高品質化の鍵は、モアレが目立たないようにするか、ロゼットパターンの形状がページ全体で普遍であるようにすることである。そのためには、同一スクリーン線数と、理想的なスクリーン角度 (15°75°0°45°)をいかに正確に再現できるかがポイントとなる。どれぐらいの正確性が求められるかと言うと、A4 ぐらいの用紙サイズであれば、角度の誤差は 0.001°以内、線数の精度は 0.01 線以内が求められる。勿論用紙サイズが大きくなるとより厳格な制度が求められる。



実は PostScript 標準の RT (Rational Tangent) スクリーニングでは、スクリーン線数とスクリーン角度は取り得る値がかなり限られる。例えば、2400dpi で 133.33 線 15°という設定を行うと、結果は 135.44 線 16.39 °となってしまう。この誤差は、なんと 2.11 線1.39°もある。原因は、RT スクリーニングでは、均一な編点セル形状・サイズが用いられるためである。原理的に、編点のセルサイズを大きくすると、角度の自由度は増すが、スクリーン線数は低くなり、編点が人間の目で認識されるようになる。一方編点のサイズを小さくすると、スクリーン線数が高くなり、編点が目立たないスクリーンとはなるが、取り得るスクリーン角度の自由度が減り、また表現できる階調数も減る。



指定されたスクリーン線数と角度をより正確に再現するためにアキュレートスクリーニングが開発された。 アキュレートスクリーニングでは、一つの大きなスーパーセルの中に形も大きさも異なる複数の網点セルを形成することで、高いスクリーン線数を確保しながら、より希望値に近いスクリーン角度を得ることを可能にした。これにより、モアレを目だたたくし、ページ全体で均一なロゼットパターンを得ることができる。しかしながら、精度を上げるために巨大なスーパーセルを作成することが必要となり、RIP の計算コストが飛躍的に増大する。



高級な RIP では、要求されるスクリーン角度や線数に対し実際に使用される角度や線数の許容精度や偏差値の設定、網点セルにドットを置く順序を制御しスムーズな網を提供、256 階調を超える高い階調表現、低い解像度のデバイスで高い線数と階調を提供、そしてロゼットの形状の制御など、大変高度な制御が可能なものもあります。

コメント

非公開コメント