JIS X 0213:2004 (JIS2004) の問題

Windows Vista では、MS ゴシックと MS 明朝のアップデート (以後 Version 5.0 フォント) が行われ、JIS X 0213:2004 (以後 JIS2004) に対応した日本語 OpenType フォント;MS ゴシック 3 書体(MS ゴシック、MSP ゴシック、MS UI Gothic)、MS 明朝 2 書体(MS 明朝、MSP 明朝)、そして日本語 Clear Type フォントのメイリオ(語源は「明瞭」とのこと)の都合 6 書体を搭載している。



この JIS2004 規格は、「印刷標準字体」と「新人名用漢字」の両方に対応するものだ。Windows Vista 以前の Windows では、JIS 第 1 および第 2 水準漢字の漢字 (JIS X 0208-1997 で規定の第 1、第 2 水準漢字部分 6,355 文字)に加え、1990 年に制定された JIS X 0212 の補助漢字の 5,801 文字を加えた 12,156 文字の漢字セットを標準フォント (以後 Version 2.3 フォント)としていた。字体に関しては、1990 年に改定された JIS90 規格の例示字体を基本的に採用していた。長い間、表外漢字(常用漢字表に定めの無い漢字)の字体に関する標準がなかったが、2000 年 12 月の国語審議会答申で「表外漢字字体表」が制定されたのを受け、2004 年に JIS2004 として表外漢字字体表に対する「印刷標準字体」が規定された。



2004 年 9 月には戸籍法施行規則の一部が改正され、子供の名前に用いることができる漢字が大幅に拡張され、「新人名用漢字」として公示された。追加された漢字の字種は JIS2004 の中から選定され、字体に関しては「印刷標準字体」が採用された。したがって、官公庁などで「新人名漢字」のすべてに対応しなければならない業務では、JIS2004 に対するフォントを搭載した Windows Vista は、魅力的だ。



この様に、Version 5.0 フォントは、新世代のフォントではあるが、幾つか互換性の問題が発生する。1つ目の問題は、Version 5.0 フォントでは、一部の文字字体が JIS2004 の「印刷標準字体」に対応するために変更 (以前の Version 2.3 フォントでは、JIS90 の例示字体)されていることだ。これにより、たとえ同じアプリケーションのデーターを用いても、Windows Vista 上とそれ以前の Windows 上では、表示される一部の文字の字体が変わってしまうという問題が発生する。またホストベースのプリンタでは、印刷する PC 上のフォントにより、印刷結果が異なってしまう問題が発生する。また PDF を作成する場合、フォントを埋め込まない設定で PDF 生成した場合には、PDF を表示する PC プラットフォームのフォント環境によって文字字体が変わってしまうという問題が発生する。尚、XPS ドキュメントの場合には、フォントの埋め込みが基本となるため、開く環境により表示される字体が変わる問題は発生しない。



2つ目の問題は、Windows Vista 上で作成されたデーターを Windows Vista 以前の Windows 上で開くと、Version 5.0 フォントで新たに追加された文字が表示できない問題が発生する。特に、CJK extension B に属する文字では問題が深刻だ。 CJK extension B(CJK統合漢字拡張B領域)とは、Unicode の符号範囲で U+20000 から U+2A6DF の第 2 面にマッピングされている文字である。上記コードは Windows 上では UTF-16 のサロゲートペア (Surrogate pair) (2 つの 16-bit 符号単位で 1 つの文字を表す)としてでサポートされる。(JIS2004 には CJK extension B に属する文字が 303 文字存在する。)アプリケーションが、UTF-16 コードを処理できない (UCS2 のみに対応する)場合、もしくは Version 2.3 フォントを使用している場合、これらのサロゲートペアの文字は「??」もしくは「□□」などで表示されてしまうことがある。これは、単なる文字化けではく、1 つの文字が 2 つの文字スペースになるので問題は更に深刻だ。



またフォント搭載型のプリンタに印刷する場合にも注意が必要だ。通常プリンタには JIS2004 で追加された文字が搭載されているとは思えないので、これら新しい文字を含む可能性のあるドキュメントを印刷する場合には注意が必要だ。たとえ、Version 2.3 フォントにも存在する範囲の文字だけを使っていても、文字字体が異なる問題が発生することが予測される。葛飾区の「葛」や「辻」等の漢字をテスト印刷することにより印刷結果を確認するのが良いかもしれない。勿論、ダイナミックダウンロードで、文字グリフデーターを印刷ジョブ内に埋め込む場合には、表示と印刷の違いは発生しない。



マイクロソフトでは、幾つかのフォント移行シナリオを用意しているようであり、幾つかのフォントセットをマイクロソフトはダウンロード提供している。詳細は、マイクロソフトの Web ページを参照されたい。

コメント

非公開コメント